音響計測 技術コラム
エンド・オブ・ライン音響検査システム ─ 量産品の“静けさ”を定量化する ─
2025年10月20日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
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- エンド・オブ・ライン音響検査システム ─ 量産品の“静けさ”を定量化する ─
はじめに
「静かに動く製品」を量産するには、設計段階の音響評価だけでなく、生産ライン上での音品質保証が不可欠です。
その役割を担うのが、EOL(End-of-Line)音響検査システムです。
EOL検査は、完成した製品の最終工程で、異音・共振・動作音のばらつきを定量的に評価する技術です。
モーター、ファン、ポンプ、ギア、家電、車載部品など、あらゆる「動く製品」において、静音品質を保証する最後の砦となります。
EOL検査の目的と役割
EOL検査の目的は明確です。
「動作中の音から、正常・異常を見極める」こと。
つまり、製品の動作音をデータとして捉え、設計上の想定と照合して合否判定を行います。
従来の聴感検査とは異なり、EOL検査では
- 人の主観を排除した定量評価
- 自動化による高スループット
- 設備環境に左右されない再現性
が求められます。
これにより、静音品質が「感覚」ではなく「数値」で管理できるようになります。
検査の基本構成
EOL音響検査システムは、主に以下の3要素で構成されます。
1. 音響センシング
マイクロホンまたは加速度センサによる音・振動の取得
2. 信号処理・特徴抽出
スペクトル解析、包絡線処理、時間波形分析など
3. 判定ロジック
しきい値判定、統計的外れ値検出、AIによる異常検知
これらを生産ライン上でリアルタイムに実行し、製品ごとの音響指紋(Acoustic Signature)を判定します。
音響品質を測る指標
EOL検査では、単に「音の大きさ」だけでなく、音の内容(スペクトル構成・変動性・特徴量)を評価します。
| 指標 | 内容 | 主な用途 |
|---|---|---|
| SPL(音圧レベル) | 全体的な騒音レベル | 総合判定、異常増大検出 |
| FFTスペクトル | 周波数成分の分析 | 回転数・共振・摩擦異音検出 |
| エンベロープ解析 | 時間変化パターン | 打撃音・周期異常検出 |
| 統計特徴量 | RMS・クルトシスなど | AI分類・異常傾向把握 |
これにより、「静かに動いているか」「異音がないか」を客観的なパラメータで評価可能になります。
環境とシステム設計の考え方
EOL検査では、精密な信号処理に加え、環境ノイズの制御が極めて重要です。
- 防音カバーや簡易無響構造での遮音化
- 防振架台による機械振動の分離
- 測定マイクの指向性最適化
- 背景ノイズ補正アルゴリズム
これらを組み合わせることで、工場ラインという“静かでない環境”でも、安定した測定精度を確保します。
データベース化と品質保証
EOL検査で得られるデータは、単なる合否情報ではなく、音品質の履歴データベースとして蓄積されます。
これにより
- 経時変化やロット差の分析
- 設備・工具の劣化検知
- 設計へのフィードバック
が可能になり、「測る」→「学習する」→「改善する」というサウンドエンジニアリングの循環が形成されます。
まとめ:静けさをつくる最後の検査
EOL音響検査は、静音品質を最後に保証する工程です。
それは単なる試験ではなく、「製品の静けさを定義する計測プロセス」でもあります。
音を“聴く”から、“測る”へ。
EOL技術は、ものづくりにおける静けさの定量的な基準を確立する鍵です。
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