音響計測 技術コラム
静けさを“測る”技術 ─ 無響室が支える産業の品質 ─
2025年11月25日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
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音響パワー測定
はじめに
どんなに優れた防音構造を設計しても、「静かさ」は測らなければ証明できません。
工場や製品開発の現場では、静音性能を“感覚”ではなく“数値”で管理することが求められています。
その基盤となるのが、無響室(Anechoic Chamber)です。
本記事では、無響室がなぜ産業に不可欠なのか、そしてその“静けさを測る力”がどのように品質を支えているのかを解説します。
無響室とは何か
無響室とは、壁・床・天井すべてで音の反射を極限まで抑えた空間です。
内部では音がどの方向にも反射せず、自由音場(free field)に近い条件が再現されます。
この環境により、スピーカーやモーター、ファンなどの音を正確な音圧・周波数特性として測定できます。
| 無響室の種類 | 主な用途 |
|---|---|
| 完全無響室(FAC) | 音響機器・電子音響・測定研究 |
| 半無響室(SAC) | 自動車・家電・機械装置の騒音試験 |
| 電気音響無響室(EAAC) | マイク・スピーカーの指向特性測定 |
| 音響パワー用無響室(SPAC) | 機器の音響出力評価・JIS/ISO試験 |
静音化が“つくる技術”なら、無響室はその成果を「測り、保証する技術」です。
産業における「測音環境」の重要性
製品が静かに動くことは、単なる快適性ではなく品質そのものの指標です。
- 家電やOA機器では「静かさ=高品質」の印象を左右
- 自動車では騒音の周波数特性がブランドイメージを形成
- 精密装置では、わずかな機械音が測定精度を左右
これらを客観的に管理するには、再現性の高い測定環境が不可欠です。
無響室はそのための“静寂の基準器”と言える存在です。
無響室が求められる性能
「反射を抑える」「静かにする」だけでは無響室は成立しません。
精密な試験環境には、以下の要素が要求されます。
- 1. 高い吸音性能(低域まで安定した吸音率)
- 2. 外部騒音からの遮断(高遮音構造)
- 3. 構造振動の抑制(防振構造)
- 4. 電気・空調・照明の静粛性確保
これらを組み合わせて初めて、「測定誤差のない無響空間」が実現します。
BFシリーズが果たす役割
無響室の内部吸音構造には、広帯域吸音材が欠かせません。
BFシリーズ(Broadband Fractal Series)は、非繊維系でありながら高い吸音性能と耐久性を兼ね備えた素材群で、試験用・実験用の無響空間にも応用されています。
- 低周波から高周波まで安定した吸音性能
- 粉塵を発生させず、清掃・点検が容易
- 高湿・高温環境でも性能が変化しにくい
こうした特性により、BFシリーズはメンテナンス性と精度を両立する吸音素材として、試験室や検査ラインの“静音基盤”を支えます。
無響室の未来:測る技術から「聴かせる」技術へ
近年では、無響室は単なる測定の場ではなく、「音の設計」そのものを行う空間へと進化しています。
- 音質チューニング(サウンドデザイン)
- AIによる音響シミュレーション
- 自動測定システムによる品質監査
静けさの中で音を“聴く”ことが、製品の価値を新たに定義する時代になっています。
まとめ:静けさをつくり、測り、保つ
防音設計が「静けさをつくる」技術だとすれば、無響室は「静けさを測る」技術です。
そしてBFシリーズは、その両者をつなぐ実用的な素材技術として、音環境の設計・評価・維持を一体で支えます。
静けさとは、つくるものでもあり、測り、確かめ、続けるものでもあります。
その基準を支えているのが、無響室という“静寂の装置”なのです。
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