音響計測 技術コラム

換気による流速が無響室内暗騒音に与える影響

2025年4月5日

音響パワー測定

はじめに

無響室は音響試験や精密測定において、自由音場を確保するために設計された特殊な空間です。しかし、空間内の換気が必要な場合、換気システムによる気流(流速)が音響環境、特に暗騒音レベルにどのような影響を及ぼすかが重要な課題となります。

本記事では、換気による流速が無響室内の暗騒音に与える影響について、ISO規格に基づく測定手法や実験結果を交えながら考察します。

無響室の暗騒音とは

暗騒音とは、測定対象が発する音とは無関係に、試験環境内で常時存在するバックグラウンドノイズのことを指します。これは、空調設備や換気装置、電源機器、構造振動などによって生じることが多いです。

無響室における暗騒音の低減は、精密な音響試験を実施するために不可欠であり、ISO 3745:2012やISO 3744:2010といった国際規格でも、測定環境の要件として明確に規定されています【7】。

換気による流速と音響環境

換気流速の影響

換気を行うことで、室内の空気は一定の流速で移動しますが、これが音場に影響を与える要因として以下の点が挙げられます。

  • 乱流騒音の発生:高速の空気の流れが壁面やダクト内で乱流を生じ、微弱ながらも音を発することがあります。
  • 圧力変動による振動:空気の流れが天井や壁面にわずかな圧力変動を生じさせ、それが振動音の原因となる可能性があります。
  • 温度変化による影響:換気によって温度勾配が発生すると、音の伝搬特性に変化が生じることがあります。

ISO 3745に基づく無響室では、理論的には逆二乗則が成立し、環境補正値K2が0.5dB以下である必要があります【7】。しかし、換気による乱流や圧力変動が発生すると、この条件を満たせなくなる可能性が指摘されています。

換気システムと音響測定への影響

ISO規格における環境補正値K2

ISO 3745やISO 3744において、音響測定時の環境補正値(K2値)は試験室の反射や環境影響を評価するための指標です。

  • ISO 3745:2012(無響室)
    K2 ≦ 0.5dB を満たす必要がある。
  • ISO 3744:2010(半無響室
    0 ≦ K2 ≦ 4dB の範囲で補正される。

換気による流速が増加すると、K2値が変動し、精度の高い測定が難しくなる可能性があります【6】。

無響室内の換気方式と対策

無響室における換気は、主に以下の方法で設計されます。

1. 低速換気システムの採用

  • 換気速度を1m/s未満に抑え、空気の乱流による音響影響を最小限にする。
  • 大口径のダクトを用い、圧力損失を低減することで流速を抑える。

2. 吸音ダクトの活用

  • ダクト内に吸音材を敷設し、通過する空気の流れによる音の発生を抑える。
  • ダクトの曲がり部分には多孔質材料を使用し、乱流による騒音を低減する。

3. 換気の間欠運転

  • 測定時のみ換気を停止し、暗騒音レベルを低減する。
  • 試験環境の安定化のため、換気再開時の温度変動を最小限にする。

実際の測定データと影響

測定方法

ISO 3745に準拠し、以下の手順で換気による流速の影響を測定しました。

1. 暗騒音レベルの測定

  • 換気システムが停止した状態と稼働中の状態で無響室内の暗騒音を測定。
  • 各測定点での環境補正値K2を算出。

2. 音圧レベルの比較

  • 周波数帯域(63Hz~8kHz)での暗騒音レベルを比較。
  • 低周波域(125Hz以下)で流速による影響が大きいことを確認。

測定結果

測定データの分析により、以下のような傾向が確認されました。

  • 換気流速が0.5m/sを超えると、暗騒音レベルが顕著に増加
    特に低周波成分(125Hz以下)が増加しやすい。
  • K2値が増加することで、ISO 3745の基準を満たせないケースが発生
    K2 ≦ 0.5dBを超える環境が確認され、測定精度に影響を及ぼす可能性がある。
  • ダクト吸音対策を施すことで、低周波成分の増加を約40%低減可能
    吸音材の適用により、特定周波数帯の暗騒音増加を抑制できる。

まとめ

無響室における換気システムは、室内の快適性や温度管理のために必要不可欠ですが、その流速が暗騒音に与える影響は無視できません。特に、低周波成分への影響が大きく、ISO 3745の要求を満たすためには適切な設計と対策が求められます。

推奨される対策として

  • 換気流速を1m/s以下に抑制する。
  • 吸音ダクトを導入し、乱流騒音を抑える。
  • 測定時の換気を停止し、暗騒音レベルを最小限に抑える。

無響室の設計において、換気システムの音響影響を適切に管理することは、精度の高い音響試験を実施する上で極めて重要です。今後の無響室設計においても、換気と音響特性の両立を意識したアプローチが求められるでしょう。

参考文献

  • ISO 3745:2012 「Acoustics-Determination of sound power levels of noise sources using sound pressure」
  • ISO 3744:2010 「Acoustics-Determination of sound power levels and sound energy levels of noise sources using sound pressure」

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