音響計測 技術コラム
無響室・半無響室の規格に適合する設計要件
2025年6月11日
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電気音響測定
ISO規格に基づく「部屋サイズ」「吸音率」「音源配置」の最新要件
無響室や半無響室は、製品の音響特性を正確に評価するための重要な試験空間です。特にISO 3745:2012やISO 3744:2010といった国際規格に準拠することが求められる中で、「どのような設計条件を満たす必要があるのか?」という疑問は、エンジニア・開発者の皆さまにとって重要なテーマです。
本記事では、部屋サイズ・吸音率・音源の配置条件について、最新のISO規格の視点からわかりやすく整理します。
無響室・半無響室とは?
無響室 | 音の反射をほぼ完全に抑えた空間。全方向から自由音場が得られる。 |
---|---|
半無響室 | 床面のみを反射面として残し、他の面は吸音処理されている。 |
これらは「逆二乗則」(音圧レベルが距離の2乗に反比例して減衰)の成立を条件に、「自由音場」または「半自由音場」が実現された空間として規定されます。
部屋サイズの要件:音源体積の200倍以上
ISO 3745:2003の附則Kによれば、試験室の容積は対象となる音源体積の200倍以上が望ましいとされています(※2012年版では削除されていますが、参考指針として有効です)。
加えて、音源を囲む仮想直方体から全方向に0.5m以上の余裕距離を確保することが求められます。
例
音源体積 | 0.1m³ → 試験室容積:20m³以上 |
---|---|
空間サイズ例 | 2.5m × 3.5m × 2.5m |
吸音率の基準:逆二乗則の成立が最優先
最新の規格(ISO 3745:2012)では…
「吸音率0.99以上」や「λ/4以上の吸音楔の厚み」といった具体的な数値要件は削除されています。
代わりに重視されるのは:
- 逆二乗則が成立するかどうか(自由音場の成立)
これにより、以下のような従来とは異なる構造や吸音材の採用が可能になっています:
- 有孔鉄板で覆ったグラスウール構造
- メラミンフォームや平板タイプの吸音材
- ソノーラの**BFW(Broadband Fractal Wedge)**などの非楔構造
これらの材質は、視覚的な圧迫感を軽減し、快適な測定環境を提供しながらも、厳密な逆二乗則の成立を実現しています。
音源の配置条件:中心配置と反射面距離が重要
ISO 3745:2012では、音源は無響室の中央に配置することが推奨されており、半無響室においては反射面(床)から150mm以内に設置することが規定されています。
音源構成例(周波数帯別)
周波数帯域 | 推奨音源構成 | 半無響室での設置条件 |
---|---|---|
~400Hz | φ25cmスピーカー | 反射面から8cm以内 |
400~2000Hz | 対向スピーカー | 反射面から2cm以内 |
2000Hz~ | 細径パイプ型スピーカー | 反射面から0.5cm以内 |
測定精度を左右する「K2値」
**K2(環境補正値)**は、試験室の反射などが音場に与える影響を補正するための値です。
測定方法 | 許容K2値(dB) |
---|---|
ISO 3745(精密測定) | ≦0.5 dB |
ISO 3744(実用測定) | ≦4.0 dB |
現実的な設計ではK2≦4.0 dBを目標とするケースが多く、これにより過度な吸音構造を回避しつつ、十分な測定精度が得られます。
まとめ:規格適合の鍵は「逆二乗則の成立」
ISO 3745:2012では、具体的な構造仕様よりも、音場の性能(逆二乗則の成立)を重視する方針に転換されています。これにより、従来の設計に縛られず、より柔軟な吸音構造・空間設計が可能となっています。
当社では、こうした最新規格に準拠しつつも、独自の吸音材「BFシリーズ」などを用いて、精度と快適性を両立した無響室・半無響室の設計・施工を実現しています。
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