音響計測 技術コラム
無響室の「かたち」と「ひろさ」に込められた理由
2025年7月16日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
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音響パワー測定

HBK × ソノーラが実現する、理想の計測環境
無響室は、音の反射を限りなく抑えた自由音場を人工的に再現する空間です。音響パワーや音圧、周波数特性などを正確に測定するためには、この自由音場の成立が絶対条件となります。
しかし、理論どおりの音場を実現するには、単なる「防音室」や「吸音材」では不十分です。
この記事では、HBKの計測技術とソノーラの設計ノウハウをベースに、なぜ無響室は直方体でなければならないのか、そしてなぜ計測範囲に制限があるのかを、製品・技術の視点で解説します。
無響室が「直方体」である理由
安定した音場をつくる、形状設計の論理
無響室を正方形ではなく直方体で設計する最大の理由は、定在波の抑制にあります。
正方形では、壁同士の距離が等しくなりやすく、特定の周波数で音波が反射・共鳴しやすくなります。これは「定在波」と呼ばれ、測定に大きな誤差を与える要因となります。
これに対し、直方体の設計は、空間内の音波の分布をよりランダムに保ち、自由音場の特性を維持するのに最適です。HBKの音響測定ガイドラインやISO 3745:2012においても、測定点ごとの距離と角度のバランスが非常に重要であることが強調されています。
* ソノーラの設計ポイント
室内で音源とマイクが近接しすぎたり、対称性が高すぎたりすると逆二乗則が成立しづらくなるため、ソノーラでは室内形状と吸音材配置を含めた反射・干渉シミュレーションを実施。無響室の形状と音場の最適解を導き出します。
測定可能範囲の限界とは?
逆二乗則が「成立する」エリアをどう設計するか
無響室では、測定対象とマイクの距離によって音の減衰が**理論通り(約6dB/倍距離)**でなければなりません。これが「逆二乗則」です。
しかし、以下のようなケースでは逆二乗則が成立しにくくなります:
- 音源に近すぎる(近接場)
- 壁面や床面に近すぎる
- 音源が広がりを持っている(点音源でない)
HBKが推奨するK2補正(環境補正値)の管理は、こうした偏差を定量的に測定・評価するための手法です。HBKの基準音源「Type 4204」や音響パワー測定ソフトウェア Sound Power Softwareを活用することで、無響室の性能をISO規格に基づいて定量評価できます。
HBKの技術例
無指向性音源(OmniPower™ Sound Source Type 4292-L) | ISO 3744/3745に準拠した検証に最適 |
---|---|
Sound Power Software + PULSEシステム | マイクロホンデータを自動で収集・解析し、K1/K2補正を含む正確な音響パワー評価を実現 |
ソノーラの吸音技術「BFシリーズ」で、自由音場をもっと確実に
従来のグラスウール楔は高い吸音性能を持ちながらも、粉塵や劣化の課題がありました。ソノーラでは、それに代わる独自素材「BFシリーズ」を開発。
BFW | 吸音クサビ、音響反射率を大幅に低減し、遮断周波数以下でも高い吸音性能を発揮 |
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BFB・BFP | 吸音内装材、壁・天井・床の各部に応じて設計可能。モジュール化にも対応し、メンテナンス性も向上 |
これらの吸音材は、HBKの無指向性音源と併用することで、規格値(K2≦0.5 dB)を満たす無響室の設計がより高精度に行えます。
HBK × ソノーラ:トータルソリューションで支える音響評価
HBKが提供する高精度な音響計測機器と、ソノーラが提供する空間設計・吸音技術を組み合わせることで、無響室の設計から測定方法、機器提案までをワンストップで支援します。
まとめ
無響室は、「形」も「ひろさ」もすべてが理論と検証に基づいて決定される設計空間です。HBKとソノーラは、世界標準の規格と独自技術を組み合わせることで、より正確かつ持続可能な音響評価環境を実現しています。
正確な測定は、正しい設計から。
ぜひ、HBKとソノーラによるトータルソリューションをご検討ください。
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