音響計測 技術コラム
音響カメラによる音源可視化と無響空間 ─ “見える静けさ”の活用 ─
2025年10月31日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
- 音響計測 技術コラム
- 音響カメラによる音源可視化と無響空間 ─ “見える静けさ”の活用 ─
Acoustic Camera による音源測定/音源探査
はじめに
音響試験の世界では、「音を聴く」ことから「音を見る」ことへと進化が進んでいます。
音響カメラ(Acoustic Camera)は、音圧や音響エネルギーを画像化し、どこから音が発生しているかを視覚的に示す装置です。
しかし、この技術の真価が最も発揮されるのは、反射のない無響空間──つまり、“静けさそのものを背景にした音の可視化”です。
音響カメラとは何か
音響カメラは、複数のマイクロホンアレイで音波の到来方向を計算し、音源位置を画像として再構成する技術です。
代表的な解析手法には以下のようなものがあります。
| 手法 | 特徴 | 主な用途 | 
|---|---|---|
| ビームフォーミング(Beamforming) | 高速・リアルタイム表示が可能 | 機械騒音、回転体音源 | 
| CLEAN-SC法 | 空間分解能が高い | エンジン・ファンなど複数音源 | 
| MUSIC法 | 位相解析による高精度定位 | 微小音源検出、研究用途 | 
音圧分布を色で表した“サウンドマップ”は、人間の聴覚では見つけにくい微小な異音を直感的に捉えることができます。
なぜ無響室で使うのか
音響カメラの解析は、反射音に非常に敏感です。
反射があると、音波の到来方向を誤認し、偽の音源(ゴースト)を表示してしまいます。
そのため、正確な音源定位を行うには、自由音場が成立している無響室が最適環境です。
無響室では
- 壁・天井・床からの反射を排除
- 背景ノイズを最小化
- 位相干渉のない純粋な音波を収録
これにより、音源位置と放射パターンを高精度に再現できます。
音響カメラ × 無響空間の応用領域
無響室内での音源可視化は、次のような分野で活用されています。
- モーター/アクチュエータの異音解析
- 家電・ファン製品の放射音評価
- 車載部品・内装部品の局所音源特定
- スピーカーや音響デバイスの指向性評価
とくに製品開発初期では、「どの部位が音を出しているか」を定量+視覚で確認できる点が重要です。
データフュージョン:画像・音響・振動の統合解析
近年では、音響カメラによる可視化と同時に、振動分布・温度分布・電流波形などの多物理データを統合解析する「データフュージョン」手法が広がっています。
たとえば
- 振動計測(レーザー振動計など)との重ね合わせ
- カメラ映像との同期による動作位相解析
- 周波数帯ごとのエネルギーマップ生成
これにより、“音が出る理由”を構造的に理解することができます。
音響カメラは単なる可視化装置ではなく、設計改善のための診断ツールとして機能するのです。
無響室設計との親和性
音響カメラを効果的に活用するには、測定空間自体にも以下のような配慮が必要です。
- カメラと対象の距離確保(開口角に応じた空間設計)
- 壁面・天井吸音の均質化による反射ノイズ低減
- スタンド・治具の防振・防反射化
- ケーブル・電源経路のノイズ対策
無響室と測定システムを一体的に設計することで、可視化結果の信頼性と解像度が飛躍的に高まります。
まとめ:“静けさ”を可視化するという発想
音響カメラが映し出すのは、音の分布だけではありません。
それは、静けさそのものを基準とした“音の地図”です。
無響室という理想的な静寂を背景に、音を「見える情報」に変えることで、設計者は耳ではなく目で静けさを制御できるようになります。
“見える静けさ”──それは、これからの音響評価の新しい言語です。
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