音響計測 技術コラム
防音パーテーションによる音響調整 ― 無響室内音場調整と簡易音響測定への活用 ―
2026年7月13日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
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- 防音パーテーションによる音響調整 ― 無響室内音場調整と簡易音響測定への活用 ―
音響測定や室内音響設計では、測定器や解析ソフトウェアの性能だけでなく、測定空間そのものの音場条件が結果の信頼性を大きく左右します。
高精度なマイクロホン、サウンドレベルメータ、データ収録装置、解析ソフトウェアを使用していても、測定対象からマイクロホンへ到達する音に、壁・床・天井・治具・什器・周辺設備からの反射音や回り込み音が多く含まれている場合、測定結果は音源そのものの放射音だけを表しているとは限りません。
また、会議室、講義室、Web会議スペース、工場内の指示伝達エリアなどでは、音圧レベルだけでなく、「音声がどれだけ明瞭に伝わるか」も重要な評価対象になります。このような音声明瞭度の評価では、STI(Speech Transmission Index)を用いた測定・設計が有効です。
防音パーテーションは、一般的な騒音対策だけでなく、音響測定時の反射制御、簡易測定環境の構築、無響室・半無響室内の局所音場調整、さらにSTI環境の測定・設計・構築にも活用できる可搬型の音響調整材です。
防音パーテーションを音場調整材として使う考え方
防音パーテーションという名称からは、オフィスや工場で音を遮るための間仕切りを想像しやすいかもしれません。
しかし、音響測定や室内音響設計の観点では、防音パーテーションは単なる遮音壁ではありません。測定対象や受音点の周囲に一時的な音響境界を形成し、反射音、回り込み音、周辺騒音、残響の影響を調整するための可動式音響調整材として活用できます。
主な用途は以下の通りです。
| 用途 | 目的 |
|---|---|
| 無響室・半無響室内の局所音場調整 | 治具・架台・周辺設備による反射を抑える |
| 簡易音響測定 | 一般室や工場内で測定条件を安定させる |
| 音源背面反射の低減 | 背面壁や治具からの反射経路を抑える |
| マイクロホン背後反射の低減 | 受音点背後からの反射音を低減する |
| 周辺騒音の分離 | 測定対象以外の設備音の混入を抑える |
| STI環境の構築 | 音声明瞭度に影響する反射音・残響・暗騒音を調整する |
| Web会議・会議室の音響改善 | マイクに入る反射音や周囲音を抑える |
SONORAの防音パーテーションは自立式で、設置工事を行わずに配置できます。さらに、両面にBFB吸音板を装備しているため、音源側と受音側の双方で反射音を抑えやすい構造です。
音響測定における反射音の影響
音響測定では、測定対象からマイクロホンへ直接到達する音だけでなく、周囲の境界面や構造物から反射した音も同時にマイクロホンへ到達します。
この反射音が大きい場合、測定結果には以下のような影響が生じます。
| 音場上の問題 | 測定結果への影響 |
|---|---|
| 壁面・床面からの反射 | 周波数特性にピークやディップが生じる |
| 治具・架台からの反射 | 測定対象に起因しない局所的な音圧上昇が生じる |
| 周辺設備からの騒音 | 暗騒音補正が大きくなり、測定不確かさが増える |
| マイクロホン背後からの反射 | 受音点の音圧レベルが不安定になる |
| 測定空間の寸法不足 | 近距離音場や反射音場の影響を受けやすくなる |
たとえば、測定対象の背後に硬い壁面や治具がある場合、音源から後方へ放射された音が反射し、マイクロホン方向へ戻ってくることがあります。この反射音は直接音と干渉し、周波数特性上に周期的なピーク・ディップを発生させることがあります。
このような場合、音源背面に防音パーテーションを配置することで、背面反射の影響を低減し、測定条件を安定させることができます。
無響室・半無響室内での局所音場調整
無響室や半無響室は、自由音場または反射面上の自由音場を得るために設計された測定空間です。
しかし、実際の測定では、測定対象そのものが大型であったり、治具、架台、ケーブル、配管、冷却装置、電源装置、ターンテーブル、搬入口などが測定空間内に存在したりします。これらは局所的な反射、回折、散乱の原因になります。
防音パーテーションを一時的な音場調整材として配置することで、無響室・半無響室内の局所的な反射経路を抑制し、測定点ごとのばらつきを小さくできる可能性があります。
使用例
| 使用位置 | 目的 |
|---|---|
| 測定対象の背面 | 背面壁・治具・架台からの反射音を低減 |
| 測定対象の側面 | 側方反射や側方回り込み音を抑制 |
| マイクロホン背後 | 受音点背後から到来する反射音を低減 |
| 周辺設備との間 | 測定対象以外の設備音の混入を抑制 |
| 扉・開口部付近 | 局所的な反射・漏音経路の影響を低減 |
重要なのは、防音パーテーションを「完全に音を遮断する壁」としてではなく、反射経路を制御するための可動式音響境界として使うことです。
簡易音響測定における活用
開発初期の比較測定、現場での騒音診断、設備更新前後の効果確認、試作品の相対評価などでは、無響室や半無響室ではなく、一般室、実験室、工場内で簡易測定を行うことがあります。
このような測定では、絶対値の保証よりも、以下の要素が重要になります。
| 評価項目 | 目的 |
|---|---|
| 測定条件の再現性 | 前後比較や試作品比較を安定して行う |
| S/N比 | 測定対象音と周辺騒音を分離する |
| 測定点ごとのばらつき | 局所反射による測定値の乱れを抑える |
| 反射音・回り込み音 | 対象音以外の影響を減らす |
| 配置条件の固定 | 同一条件で繰り返し測定できるようにする |
防音パーテーションを使用することで、測定対象の周囲に簡易的な測定エリアを形成できます。小型モーター、ファン、ポンプ、プリンター、サーバー、電源装置、駆動系ユニットなどの測定では、測定対象の背面や側方に防音パーテーションを配置することで、周囲反射や周辺設備音の影響を低減しやすくなります。
セッティング例:音源背面反射の低減
測定対象の背面に防音パーテーションを配置し、背面壁や治具からの反射を抑える配置です。
適用例
- 小型モーターの騒音測定
- ファン・ポンプの比較測定
- 電源装置・サーバー機器の音圧測定
- 試作品の前後比較評価
配置の考え方
測定対象とマイクロホンの間の直接音経路は確保し、背面側の反射経路をパーテーションで抑えます。
周波数特性に周期的なピーク・ディップが見られる場合、背面反射が測定結果に影響している可能性があります。この場合、防音パーテーションの有無や配置を変えて測定することで、背面反射の影響を確認できます。
配置イメージ
| 要素 | 配置 |
|---|---|
| 測定対象 | マイクロホン方向に直接音を放射 |
| 防音パーテーション | 測定対象の背面側に配置 |
| マイクロホン | 測定対象の正面側に配置 |
| 直接音経路 | 確保する |
| 背面反射経路 | 防音パーテーションで抑制する |
セッティング例:マイクロホン背後反射の低減
マイクロホンの背後に防音パーテーションを配置し、受音点背後からの反射音を低減する配置です。
適用例
- 小部屋での簡易音圧測定
- 壁面近傍での現場測定
- 測定者や什器が近い環境での測定
- 一般室における試作品評価
配置の考え方
マイクロホン背後の壁面や什器からの反射が測定値に影響する場合、受音点背後に吸音面を設けることで、マイクロホン位置の音場を安定させます。
特に一般室では、マイクロホン背後の反射が中高周波数域の測定値に影響することがあるため、簡易測定時の再現性向上に有効です。
セッティング例:測定対象のL字・コの字囲い
複数枚の防音パーテーションを用いて、測定対象をL字形またはコの字形に囲う配置です。
適用例
- 工場内での設備音測定
- 周辺設備が稼働している環境での対象音測定
- 開発初期段階の相対比較
- 防音対策前後の効果確認
配置の考え方
測定対象の背面および側方を防音パーテーションで囲うことで、周囲反射や周辺騒音の混入を抑えます。
完全な自由音場を構成するものではありませんが、測定条件を固定しやすくなり、比較測定の再現性向上に役立ちます。
STI環境の測定・設計・構築への応用
防音パーテーションの活用範囲は、音響パワー測定や簡易騒音測定に限られません。会議室、講義室、Web会議スペース、監視室、コールセンター、工場内の指示伝達エリアなどでは、音圧レベルだけでなく、音声がどれだけ明瞭に伝わるかが重要になります。
このような音声伝達品質を評価する指標のひとつが、STI(Speech Transmission Index)です。
STIは、話し手またはスピーカーから聞き手までの音声伝達品質を評価する指標であり、以下の要素の影響を受けます。
| 要素 | STIへの影響 |
|---|---|
| 残響時間 | 長すぎると音節が重なり、明瞭度が低下する |
| 初期反射 | 適切な範囲では有利に働くが、強すぎると明瞭度を損なう |
| 後期反射・残響 | 音声の時間変動をぼかし、聞き取りにくさの原因になる |
| 暗騒音 | 音声のS/N比を低下させる |
| 周辺エリアからの音声混入 | 対象音声の識別性を低下させる |
| スピーカー・話者の配置 | 直接音と反射音のバランスに影響する |
| 受聴位置 | 場所によって明瞭度が大きく変わる |
防音パーテーションは、これらの要素を局所的に調整するために使用できます。
STI環境における防音パーテーションの使い方
STIを改善するためには、単に吸音材を増やすだけでは不十分です。音声が伝わる経路において、直接音、初期反射、残響、暗騒音、回り込み音のバランスを整える必要があります。
防音パーテーションは、以下のような用途で活用できます。
| 使用方法 | 目的 |
|---|---|
| 話者・スピーカー背面への配置 | 背面反射を抑え、音声の濁りを低減する |
| 受聴位置背面への配置 | 聞き手背後からの反射音を低減する |
| 会議スペースの部分囲い | 周辺騒音や隣接エリアからの音声混入を抑える |
| Web会議ブースの音響調整 | マイクに入る反射音・環境音を低減する |
| 工場内の指示伝達エリア形成 | 機械騒音下での音声伝達性を改善する |
| 測定前後の比較評価 | パーテーション配置によるSTI改善効果を確認する |
たとえば、Web会議スペースでは、話者の声そのものは十分な音量であっても、室内反射や周囲音がマイクに入ることで、遠隔側の聞き取りやすさが低下することがあります。この場合、話者背面や側方に防音パーテーションを配置することで、マイクに入る反射音や環境音を抑え、音声明瞭度を改善できる可能性があります。
また、工場内の作業指示エリアでは、周囲の機械騒音によって音声のS/N比が悪化します。防音パーテーションを用いて、指示伝達エリアを部分的に区切ることで、対象音声と周辺騒音の分離を図ることができます。
STI測定・音響設計の進め方
STI環境を構築する場合は、以下のような手順で進めると効果を確認しやすくなります。
1. 現状把握
対象空間の用途、話者位置、受聴位置、スピーカー位置、暗騒音源、反射面、残響感を確認します。
会議室であれば、着席位置ごとの聞こえ方、Web会議でのマイク位置、スピーカーの設置位置を確認します。工場内であれば、機械騒音源、作業者の立ち位置、指示を伝える方向を確認します。
2. STI測定
対象位置でSTIを測定し、音声伝達品質を定量的に確認します。必要に応じて、音圧レベル、暗騒音、残響時間、周波数特性も併せて評価します。
3. 反射・騒音経路の推定
STIを低下させている原因が、残響なのか、暗騒音なのか、特定方向からの反射なのか、周辺エリアからの音声混入なのかを整理します。
4. 防音パーテーションの仮設
話者背面、受聴位置背面、側方、騒音源との間などに防音パーテーションを仮設し、反射音や周辺騒音の影響を調整します。
5. 再測定・比較
パーテーション設置前後でSTI、音圧レベル、暗騒音、残響感、周波数特性を比較します。
6. 恒久対策への展開
可搬式パーテーションで効果を確認したうえで、必要に応じて、常設吸音材、防音壁、防音ブース、天井・壁面吸音、スピーカー配置変更などの恒久対策へ展開します。
BFB吸音板を用いた両面吸音構造
SONORAの防音パーテーションには、両面にBFB吸音板が使用されています。
BFBは、グラスウールボードにデュポン™タイベック®を額縁貼りした内装用吸音板です。表面材であるタイベック®が空気を通すため、背面材であるグラスウールの吸音性を活かしながら、表面材としての耐久性、耐水性、意匠性にも配慮した構成になっています。
音響測定やSTI環境の調整では、両面に吸音面を持つことが重要です。
片面吸音の場合、音源側の反射は低減できても、受音側や外側の反射が残ることがあります。一方、両面吸音構造であれば、パーテーションの両側で反射音を抑えやすく、音源側・受音側の双方に対して音場調整効果を期待できます。
導入時の確認ポイント
防音パーテーションを音響測定やSTI環境構築に使用する場合は、以下の点を確認することを推奨します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 測定目的 | 絶対値評価、相対比較、スクリーニング、STI評価のどれか |
| 対象周波数 | 低周波主体か、中高周波主体か |
| 音源位置 | 点音源的か、面音源的か、複数音源か |
| マイクロホン位置 | 壁・床・什器からの反射を受けにくいか |
| 受聴位置 | 実際の聞き手位置と測定位置が対応しているか |
| 暗騒音 | 対象音声や対象音に対して十分低いか |
| 反射経路 | 背面・側面・天井・床からの反射が支配的でないか |
| 残響 | 音声明瞭度を損なうほど長くないか |
| 配置再現性 | パーテーション位置を毎回同じにできるか |
特にSTI評価では、単に音を小さくするのではなく、音声伝達に必要な直接音を確保しながら、不要な反射音、残響、暗騒音を抑えることが重要です。
仕様と実測例
SONORAの防音パーテーションは、サイズW500×L80×H1500 mm、重量約8 kgの自立式構造です。構成材はBFB吸音板、合板、スチール脚で、工場・作業場の局所騒音対策、各種音場調整、反響騒音防止、実験室・検査室・測定室の簡易遮音・吸音などに使用できます。
SONORAの半無響室内で4台を並列配置した実測例では、A特性総合で12.4 dBのレベル差を確認しています。周波数別では、500 Hzで14.9 dB、1 kHzで10.3 dB、2 kHzで12.9 dB、4 kHzで12.5 dBのレベル差を確認しています。
ただし、これは特定条件における実測例です。実際の効果は、音源の周波数特性、パーテーションの枚数、配置、すき間、床・天井・側方からの回り込み、室内の残響条件によって変化します。
まとめ
防音パーテーションは、一般的な騒音対策製品としてだけでなく、音響測定や室内音響設計における可搬型の音場調整材として活用できます。
無響室・半無響室では、治具、架台、周辺設備、開口部などによる局所反射の抑制に使用できます。一般室や工場内では、簡易音響測定における反射制御、S/N比改善、測定条件の再現性向上に役立ちます。
さらに、会議室、講義室、Web会議スペース、工場内作業エリアなどでは、STI測定、音声明瞭度改善、音響設計の検討にも活用できます。防音パーテーションを仮設し、配置を変えながら測定前後の差を確認することで、恒久的な音響対策を行う前に、対策方針を定量的に検討できます。
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