音響計測 技術コラム
ホワイトノイズ・ピンクノイズ・スイープ信号の違い|音響測定の信号を解説
2026年7月28日
- HBK × Sonora 音響計測ソリューション
- 音響計測 技術コラム
- ホワイトノイズ・ピンクノイズ・スイープ信号の違い|音響測定の信号を解説
音響パワー測定
記事概要
音響測定でスピーカーから流れる「ザーッ」という音は、機材の雑音ではなく、目的に合わせて選ばれた測定信号です。ホワイトノイズとピンクノイズは「何を基準に平らとするか」が異なり、スイープ信号は周波数を連続的に変えながらインパルス応答を測るために使われます。それぞれの特徴、規格測定での使い分け、TSP・ESSとの違いまで、音響測定システムを扱う守谷商会の視点から解説します。
測定中に流れる「ザーッ」の正体は?ホワイトノイズ・ピンクノイズ・スイープ信号の違い
音響測定の当日。マイクロホンを設置し、測定室の扉を閉め、準備が整うと、スピーカーから部屋いっぱいに「ザーッ」という音が流れ始めます。
初めて測定に立ち会う方には、砂嵐や滝の音のように聞こえるかもしれません。「機材の雑音ですか」と聞かれることもありますが、もちろん不調ではありません。あれは、測定のために意図して再生している信号です。
一口に「ザーッ」といっても、ホワイトノイズとピンクノイズでは周波数成分の配分が異なります。また、低い音から高い音へ滑らかに移っていくスイープ信号は、ノイズとは別の仕組みで空間や機器の特性を調べます。
大切なのは、どの信号が一番優れているかではなく、何を測りたいかに合わせて信号を選ぶことです。

| 信号 | 基準となる特性 | 聞こえ方の傾向 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ホワイトノイズ | 1Hzなど、等しい周波数幅ごとのエネルギーが等しい | 「シャーッ」と明るく鋭い印象 | FFT分析、機器の確認、広帯域励振 | 実際には信号発生器やスピーカーの再生帯域内で使用する |
| ピンクノイズ | 1オクターブごとのエネルギーが等しい | ホワイトノイズより低域が豊かで柔らかい印象 | オクターブバンド分析、音響システム調整、遮音・室内音響測定 | 人の等ラウドネス曲線に合わせた音ではない |
| スウェプトサイン | 正弦波の周波数を時間とともに変化させる | 低音から高音へ「ポワーン」と移る | インパルス応答、周波数特性、残響時間 | TSPやESSは関連する方式だが、すべて同義ではない |

ホワイトノイズとは——1Hz刻みで見ると平らな音
ホワイトノイズは、理想的には単位周波数幅あたりのパワースペクトル密度が一定のランダム信号です。
少し難しく聞こえますが、1Hzずつ同じ幅で区切って見たとき、どの帯域にも同じ量のエネルギーが入っている、と考えると分かりやすいでしょう。FFTのように等しい周波数幅で分析すると、時間平均したスペクトルは平らに見えます。
「すべての周波数を均等に含む」と説明されることもありますが、これは理想モデルの話です。実際の信号発生器、アンプ、スピーカーには再生できる周波数範囲があるため、測定では必要な帯域に限ったホワイトノイズを使用します。
名前は白色光からの連想です。白色光が可視域の広い範囲を含むように、広い周波数範囲を含む雑音を「ホワイトノイズ」と呼びます。
なぜホワイトノイズは高音が強く聞こえるのか
ホワイトノイズは、1Hzごとのエネルギーが等しい信号です。ところが、オクターブで区切ると、高い周波数ほど帯域幅が広くなります。
例えば、100〜200Hzの幅は100Hzですが、1,000〜2,000Hzの幅は1,000Hzです。1Hzあたりのエネルギーが同じなら、帯域幅が10倍ある後者には、それだけ多くのエネルギーが含まれます。
そのため、理想的なホワイトノイズをオクターブバンドで分析すると、周波数が1オクターブ上がるごとにバンドレベルは約3dBずつ上昇します。耳で聞いたときに「シャーッ」と高域が目立つのも、この性質によるところがあります。
ピンクノイズとは——1オクターブごとに見ると平らな音
ピンクノイズは、1オクターブごとのエネルギーが等しくなるように配分されたランダム信号です。
オクターブが一つ上がると帯域幅は2倍になります。その広い帯域の合計エネルギーを同じにするため、ピンクノイズの単位周波数幅あたりのパワーは、高域へ行くほど小さくなります。理想的にはパワースペクトル密度が周波数に反比例するため、「1/fノイズ」とも呼ばれます。
言い換えると、1Hz刻みで見れば高域へ1オクターブ上がるごとに約3dB下がり、オクターブバンドで合計すると各帯域がほぼ同じレベルになります。
「人間の耳に合わせた音」ではない
ピンクノイズは、しばしば「人間の耳に合わせた音」と説明されます。しかし、これは少し誤解を招きます。
人の聴覚感度は周波数と音圧レベルによって変わり、等ラウドネス曲線も単純な1/fの形ではありません。したがって、ピンクノイズは、すべての周波数が同じ大きさに聞こえるよう補正した信号ではありません。
ピンクノイズが音響測定で使いやすいのは、音響の分析がオクターブや1/3オクターブという対数的な帯域で行われることが多いからです。帯域ごとのエネルギーがそろっているため、各バンドを同時に励振しやすく、音響システムの調整や室内音響、遮音に関する測定で広く利用されています。
ただし、規格測定で大切なのは、信号の名前だけではありません。対象周波数帯で必要な音圧レベルが得られること、暗騒音に対して十分なS/N比があること、隣接する帯域間のレベル差が規定範囲に収まることなどを確認する必要があります。
暗騒音が測定結果に与える影響については、暗騒音とは?もご覧ください。
雨音や滝の音はピンクノイズなのか
自然界の音の中には、限られた周波数範囲で1/fに近い性質を示すものがあります。そのため、雨や滝の音がピンクノイズに例えられることがあります。
とはいえ、実際の自然音は天候、流量、距離、周囲の反射、録音条件によって変わります。すべての雨音や滝の音が、理想的なピンクノイズになるわけではありません。また、「心地よく聞こえるかどうか」も人や再生レベルによって異なります。
スイープ信号とは——低い音から高い音まで順番に調べる
測定現場では、「ザーッ」ではなく、低い音から高い音へ「ポワーン」と滑らかに上がっていく音を流すことがあります。これがスウェプトサイン、一般にいうスイープ信号です。
正体は、周波数を時間とともに連続的に変化させる正弦波です。一定の速さで周波数を上げるリニアスイープと、1オクターブあたりの時間を一定にするログスイープ、または指数スイープがあります。
ノイズが広い周波数成分を同時に含むのに対し、理想的なスウェプトサインは、各瞬間では狭い周波数成分にエネルギーを集中させます。長い時間をかけて必要な帯域を順番に励振し、収録した応答に逆フィルタ処理を施すことで、部屋やスピーカーのインパルス応答を求めます。
インパルス応答は、短い衝撃が入ったときに、その空間や機器がどのように反応するかを表すデータです。いわば音響特性の指紋で、適切な処理を行えば、周波数応答、反射の到来時間、残響減衰などを調べられます。
音源から測定点までの伝達特性を調べる考え方は、音源寄与解析と音響伝達関数(ATF)測定でも解説しています。

スイープ信号がS/N比を確保しやすい理由
スイープ信号の利点は、単に「一つの周波数だけを鳴らすから」ではありません。測定時間を使って十分な総エネルギーを対象へ入力し、収録後に既知の信号との関係を利用して応答を抽出できることが重要です。
環境と測定対象が安定していれば、スイープ時間を長くすることで、暗騒音に対する実効的なS/N比を高めやすくなります。指数スイープでは、適切な逆フィルタ処理によって、スピーカーなどで発生する高調波ひずみ成分を時間軸上で分離できる場合もあります。
ただし、スイープ中に人が動く、機械の運転状態が変わる、風が大きく変動するといった状況では、測定対象が時不変であるという前提が崩れます。長くすれば常に正確になるわけではなく、環境に合った測定時間を選ぶ必要があります。
スイープ信号、ESS、TSPは同じものではない
現場では、似た音をまとめて「スイープ」や「TSP」と呼ぶことがありますが、技術的には区別しておいた方が安全です。
| 呼び方 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| スウェプトサイン | 正弦波の周波数を連続的に変える信号の総称 | リニア、ログ、指数など複数の設計がある |
| ESS | Exponential Sine Sweep。周波数を指数的に変化させるスウェプトサイン | インパルス応答測定に広く使われ、高調波ひずみを分離しやすい |
| TSP | Time-Stretched Pulse。逆フィルタ処理後にインパルス状へ圧縮されるよう、位相を設計した測定信号 | スイープのように聞こえる方式もあるが、すべてのスイープ信号の別名ではない |
一般向けの説明では「低音から高音へ変化する測定信号」で十分なこともあります。ただし、測定条件書や報告書では、実際に使った信号方式、周波数範囲、信号長、平均回数、逆フィルタ処理などを明記するのが確実です。
残響時間の測定では、どの信号を使うのか
残響時間を測る方法には、大きく分けて次の二つがあります。
1.中断ノイズ法
広帯域または帯域制限したノイズを室内に流し、音場が定常状態になったところで急に停止します。その後の音圧レベルの減衰から残響時間を求める方法です。
ノイズはランダムに変動するため、十分な測定時間と複数回の平均が必要です。また、音を止めた後の減衰を正しく測るには、対象帯域で暗騒音との差を確保しなければなりません。
2.インパルス応答積分法
スウェプトサイン、MLSなどの既知信号を再生し、収録した応答からインパルス応答を求めます。その二乗値を時間の後ろから積分する処理などを行い、エネルギー減衰曲線から残響時間を算出します。
ISO 3382-1/-2は、室内音響パラメータや残響時間の測定について、中断ノイズ法とインパルス応答に基づく方法を扱っています。スウェプトサインやMLSを用いる測定の要求事項と実務上の指針については、ISO 18233も重要な参考になります。
測定目的によって、適した信号は変わる
同じ「音響測定」でも、目的が違えば適した信号も変わります。
| 測定・作業 | よく使う信号 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 室間音圧レベル差・遮音性能 | 広帯域ノイズ、ピンクノイズなど | 複数帯域を同時に励振できる。対象帯域の音圧レベル、暗騒音との差、音場の均一性などを規格に従って確認する |
| 残響時間・室内音響 | 中断ノイズ、スウェプトサイン、MLSなど | 中断ノイズ法またはインパルス応答法を目的と環境に合わせて選ぶ |
| 音響パワー・製品騒音評価 | 定常音、規格で定めた運転音、校正・確認信号など | 測定対象の運転条件、測定面、マイクロホン位置、暗騒音補正、試験環境を一体で管理する |
| スピーカー・電気音響機器 | ピンクノイズ、スイープなど | オクターブ分析、周波数応答、ひずみ、インパルス応答など、評価項目に合わせて選ぶ |
| 機器の周波数特性・FFT分析 | ホワイトノイズ、スイープなど | 等周波数幅の分析や、周波数ごとの応答確認に使う |
| インパルス応答の高精度測定 | ESSなどのスウェプトサイン、TSP、MLS | 逆フィルタや相関処理で応答を抽出する。非線形性、暗騒音、時間変動に注意する |
信号だけを選んでも測定は成立しません。スピーカーの指向性と出力、設置位置、マイクロホン位置、対象周波数、暗騒音、平均時間、測定対象の時間変動、解析条件まで含めて計画する必要があります。
高精度な測定では、測定空間と計測機器を別々に考えないことも重要です。詳しくは、なぜ「測定室と計測機器」は一緒に考えるべきか?をご覧ください。
HBKの計測システムと測定信号
実際の測定システムでは、信号発生、データ収録、周波数分析、平均処理、規格に基づく演算までを、一つの計測チェーンとして設計します。
例えば音響パワーレベル測定では、試験信号を流すこと自体が目的ではありません。測定対象を規定条件で運転し、校正されたマイクロホンで収録し、測定面上の複数点を集計し、暗騒音や測定環境の影響を確認して結果を求めます。
守谷商会が取り扱うHBKの音響・振動計測システムと、ソノーラテクノロジーの無響室・半無響室・無響箱を組み合わせることで、信号、センサ、解析、測定空間を一体として検討できます。
音響パワー測定の具体的な構成については、ISO 3744 × PULSEによる音響パワー測定の精密運用をご参照ください。
音楽制作やPAでも、同じノイズが使われている
ピンクノイズは、PAシステムやスピーカーの調整でもよく使われます。リアルタイムアナライザで1/3オクターブバンドなどの応答を確認するとき、各帯域を同時に励振しやすいためです。
音楽制作では、小さく流したピンクノイズを目安に各トラックのフェーダーを合わせ、ラフバランスを作る手法も知られています。ただし、これは制作上の一つの出発点であり、規格化された方法でも、良いミックスを保証する方法でもありません。
ホワイトノイズは、シンセサイザーでスネアやハイハットの成分を作ったり、フィルターを動かして効果音を作ったりするときにも使われます。測定器の中で働く信号と、楽曲の中で音色を作る素材が同じというのは、興味深いところです。
「ザーッ」の意味が分かると、測定の見え方が変わる
ホワイトノイズとピンクノイズの違いは、どちらが本当に平らか、ではありません。
ホワイトノイズは、等しい周波数幅で見たときに平ら
ピンクノイズは、等しいオクターブ幅で見たときに平ら
スウェプトサインは、周波数を順番に変えながら応答を記録し、インパルス応答を求める
どの信号にも得意な測定があります。一方で、信号の種類だけでは測定精度は決まりません。目的に合った方法を選び、対象帯域で必要なS/N比を確保し、規格に沿った配置と処理を行って、初めて信頼できる結果になります。
守谷商会では、HBKの音響・振動計測機器と解析システム、ソノーラテクノロジーの無響室・半無響室・無響箱を組み合わせ、測定目的に応じた音響計測システムをご提案しています。
測定信号、マイクロホン、データ収録・解析システム、測定空間をまとめて検討したい場合は、守谷商会へお問い合わせください。
よくある質問
ピンクノイズは、ホワイトノイズより耳に優しいのですか
ピンクノイズは高域のエネルギー密度が低いため、同じ条件で聞き比べると、ホワイトノイズより柔らかく感じられることがあります。ただし、快適さは再生レベル、帯域、スピーカー、人によって変わります。長時間または大音量で聞いてよいという意味ではありません。
遮音性能の測定には、必ずピンクノイズを使いますか
必ずしもそうではありません。適用する規格や測定目的に応じて、広帯域ノイズなどを使います。重要なのは、対象帯域で必要な音圧レベルとS/N比を確保し、音場や隣接帯域間の条件などを満たすことです。
スイープ信号とTSP信号は同じですか
同じではありません。スイープ信号は周波数を連続的に変える正弦波の総称です。TSPは逆フィルタ処理後にインパルス状へ圧縮されるよう位相設計された信号で、スイープのように聞こえる方式もありますが、すべてのスイープ信号をTSPと呼ぶわけではありません。
スマートフォンのノイズアプリでも正式な測定ができますか
動作確認や簡易的な実験には使えますが、規格に基づく測定には適しません。アプリの信号精度だけでなく、スマートフォンの出力回路、アンプ、スピーカー、マイクロホンの周波数特性、校正、レベル管理まで確認できないためです。
ノイズ測定を何度も繰り返すのはなぜですか
ホワイトノイズやピンクノイズはランダム信号で、短時間の測定値にはばらつきがあります。測定時間を確保し、複数回の結果を平均することで、統計的な変動を小さくします。必要な回数や時間は、測定方法と求める精度によって変わります。
参考文献
ISO 3382-1:2009, *Acoustics — Measurement of room acoustic parameters — Part 1: Performance spaces*
ISO 18233:2006, Acoustics — Application of new measurement methods in building and room acoustics
A. Farina, “Simultaneous Measurement of Impulse Response and Distortion with a Swept-Sine Technique,” 108th AES Convention, Convention Paper 5093, 2000.
音響計測 技術コラム 新着記事
-

2026.07.28
ホワイトノイズ・ピンクノイズ・スイープ信号の違い|音響測定の信号を解説 -

2026.07.13
防音パーテーションによる音響調整 ― 無響室内音場調整と簡易音響測定への活用 ― -

2026.07.08
なぜHBK × SONORAなのか ― 音響計測機器と音響計測空間を一体で考えるメリット ― -

2026.05.18
吸音率0.99の誤解 ― ISO 3745:2012が変えた無響室評価の思想 ― -

2026.05.13
HATSの使い方 ― 人の頭と耳を再現する測定器を、規格と環境の中でどう運用するか ― -

2026.04.13
建築音響の評価手法:現場測定の効率化とラボ環境での材料評価 -

2026.03.23
日本音響学会 研究発表会に参加 ~HBK×SONORAが提案する次世代の音響計測ソリューション~ -

2026.03.10
無響室関連規格をどう読むか ― 音響パワー測定規格と試験室適格性確認の整理 ― -

2026.01.29
地球上で“無音空間”は作れるのか? ― 無響室・極低暗騒音測定を学術的に読み解く ― -

2025.12.11
無響室を「設計する幾何学」 ─ 音場性能を決める形状・構造の最適化 ─


