音響計測 技術コラム

自由音場型・音圧型・ランダム入射型マイクロホンの違い ― 測定空間に合わせた選び方と使い方 ―

2026年9月30日

音響パワー測定

はじめに

測定用マイクロホンのカタログを並べると、同じ1/2インチ、同じような外観、同じような感度の製品がいくつも並んでいます。ところが型名の横には「Free-field」「Pressure」「Random incidence(Diffuse-field)」といった区分が書かれていて、これを取り違えると、高い周波数で数dB単位のずれが生じることがあります。

この区分は、マイクの性能の優劣ではありません。どんな音場で使ったときに周波数特性が平坦になるように作られているかという設計上の前提の違いです。つまり、マイクの選択は「どの空間で測るか」と切り離せません。

本稿では、測定用コンデンサマイクロホンの三つの型の違いと、無響室・残響室・カプラなど測定空間ごとの選び方、現場で起こりやすい取り違えを整理します。

なぜ「型」によって特性が変わるのか

マイクロホンを音場に置くと、マイク自体が音の障害物になります。低い周波数では波長がマイクよりずっと長いため影響はほとんどありませんが、周波数が上がり、波長がマイクの寸法に近づくと、振動膜の前で反射と回折が起こり、音圧が局所的に上昇します。

1/2インチマイクの外径は約12.7 mmです。空気中の音速を約343 m/sとすると、波長が12.7 mmになるのは約27 kHz。実際には、その手前の数kHzあたりから影響が現れ始め、高域に向かって大きくなります。この上昇量は音の到来方向によっても変わります。

そこでメーカーは、マイクを三種類の音場のいずれかで平坦な特性になるよう最適化しています。HBK(ブリュエル・ケアー)のマイクロホンハンドブックでも、音響測定の音場を自由音場・音圧場・拡散音場の三つに分け、マイクはそのいずれかで平坦になるよう最適化されている、と説明されています。

三つの型の違い

型前提とする音場何を測るように作られているかマイクの向き代表的な用途
自由音場型(Free-field)反射のない空間で、音が一方向から届くマイクを置く前にその場所にあった音圧音源に正対(0°入射)無響室・半無響室での測定、屋外騒音、スピーカ測定
音圧型(Pressure-field)振幅と位相が場所によらず一様な音場振動膜の表面に実際にかかっている音圧壁面・カプラに組み込むカプラ、人工耳、壁面・機体表面、風洞、密閉空間
ランダム入射型(Random incidence/Diffuse-field)あらゆる方向から等確率で音が届く全方向からの入射を平均したときの音圧向きを問わない残響室、車室内・機内、反射の多い室内

自由音場型

自由音場型マイクは、自分がいることで生じる高域の音圧上昇をあらかじめ見込み、0°入射(音源に正対)で平坦な出力になるような感度特性が調整されています。出力は「マイクがなかったときの音圧」に相当するため、無響室でのスピーカの特性測定など、自由音場を前提とした測定で広く使われています。

逆に言えば、自由音場型は向きが前提条件です。音源に正対させて初めて設計どおりの特性になります。

音圧型

音圧型マイクは、振動膜の表面にかかる音圧そのものを平坦に測るよう設計されています。マイクの振動膜がカプラの壁や試験面の一部になる使い方、たとえばイヤホン測定用の人工耳(IEC 60318シリーズ)や、機体・車体表面に埋め込む測定がこれにあたります。

音圧型を本来とは異なる音場で使う場合は、そのままでは高域の特性が平坦になりません。マイクごとに提供される音場補正データを用いて、実際の使用条件に合わせた補正を行うのが基本です。

ランダム入射型

残響室や車室内のように、音があらゆる方向から同時に届く場では、正面から来る音では音圧が上がり、背面から来る音ではマイク自身の陰になって下がります。ランダム入射型は、これらを統計的に平均した応答が平坦になるよう設計されています。

平均の取り方には標準的な入射分布が定められていて、HBKのハンドブックでは、自由音場補正を5°刻みで測定し、IEC 61183(当時は草案)に従ってランダム入射補正を算出すると説明されています。

HBKのハンドブックでは、音圧型マイクはカプラ測定に加えて拡散音場でも使用できるとされています。音圧型の特性がランダム入射の特性に比較的近いためです。

型式表記で見分ける ― IEC 61094-4

作業用標準マイクロホンの規格 IEC 61094-4 では、マイクの型式を次のように表記します。

  • WS1/WS2/WS3:寸法の区分(おおむね1インチ/1/2インチ/1/4インチ)
  • 末尾のF/P/D:最適化された音場(Free-field/Pressure/Diffuse)

たとえば、HBKの1/2インチ自由音場型マイクの校正証明には「WS2F」と記載されています。手元のマイクの型がわからなくなった場合は、まず校正証明書のこの表記を確認するのが確実です。

測定空間ごとの選び方

測定空間・用途推奨される型補足
無響室・半無響室での測定自由音場型音源に正対させる。暗騒音が低い場合は低雑音マイクも検討
スピーカ・アラーム音源の周波数特性、指向性自由音場型軸上0°での測定が基本
残響室での測定ランダム入射型HBKは音圧型も拡散音場で使用可能としている
車室内・機内・反射の多い室内ランダム入射型音の到来方向が定まらない場
イヤホン・補聴器のカプラ、人工耳、HATSの耳音圧型閉じた小空間の音圧を測る
壁面・機体表面・風洞でのフラッシュマウント音圧型(表面マイク)マイクが面の一部になる
屋外の環境騒音(騒音計)自由音場型騒音計の設計と準拠規格に従う

この表は音場の性質から見た一般的な目安です。音響パワー測定などの規格に準拠して測定する場合、マイクの型や向き、測定器に求められる性能の扱いは、準拠する規格の本文と測定器の取扱説明書で確認してください。

小型無響箱で使う場合

無響箱のような小さな試験空間では、被測定物とマイクの距離が近く、マイク位置で音の到来方向が一つに定まらない場合があります。規格に準拠した絶対値の評価なのか、良否判定のような比較検査なのかによって、型の選び方と許容される誤差は変わります。比較検査では、型を揃えること、位置と向きを毎回同じにすることの方が、絶対値の厳密さよりも効いてきます。

騒音計の「IEC系」と「ANSI系」

この区分がややこしく感じられる理由の一つに、騒音計規格の歴史があります。

かつて、IEC系の騒音計は自由音場での応答を基準とし、米国の旧 ANSI S1.4 はランダム入射での応答を基準とする、という違いがありました。HBKの旧世代マイクでは、自由音場型にランダム入射補正器を取り付けることでANSI系の要求に対応する構成が用意されていたほどです。

その後、2014年に米国の ANSI/ASA S1.4-2014 Part 1 が IEC 61672-1:2013 を同一内容で採用し、騒音計の規格自体は統一されました。ただし IEC 61672-1 は、一方向から届く自由音場の音にも、ランダムな方向から届く音にも対応する設計を想定しています。そのため、米国系の試験規格や顧客指定では、今もランダム入射型や音圧型のマイクが指定される場面があります。輸出先の規格や顧客の社内規定を確認することが大切です。

現場で起こりやすい取り違え

1. 自由音場型を音源に向けていない

三脚に立てた騒音計を真上に向けたまま、横にある機械を測ってしまう。自由音場型では、これだけで高域の値が変わります。複数の音源から音が届く現場であれば、そもそも自由音場型が適切かを考え直す必要があります。

2. 校正器の値と自由音場感度の差を見落とす

音響校正器やピストンホンは、マイクを差し込んだカプラの中に既知の音圧を与える装置です。このとき得られる感度が、自由音場で使うときの感度と完全に一致するとは限りません。

差の有無と大きさは、マイクの機種と校正周波数によって異なります。HBKのハンドブックでは、ある1/2インチ自由音場型マイクについて、1 kHzでは自由音場感度が音圧感度より0.15 dB高く、校正器で合わせる際は表示を0.15 dB低く設定するよう記載されています。一方、250 Hzを基準周波数とする別の機種では、記載の感度が自由音場・ランダム入射・音圧場のいずれにも有効とされています。

差はわずかですが、精密測定や不確かさを積み上げる場面では、使用するマイクの校正証明書と測定器の設定で、この補正の扱いを確認しておく価値があります。

3. 付属品が高域特性を変えている

保護グリッドの有無、ランダム入射補正器、ウインドスクリーンなどの付属品は、いずれも高域の特性を変えます。HBKのマイクには、保護グリッドの有無や音場ごとの補正データが提供されており、解析ソフト側で実際の使用条件に合わせた補正を適用できます。校正証明書の特性が、どの付属品の状態で得られたものかを確認しておくことが大切です。

4. 小さいマイクなら何でも解決するわけではない

1/4インチや1/8インチのマイクは寸法が小さいため、音場の違いによる影響が現れる周波数が高くなり、型の違いも小さくなります。その一方で、感度が低く自己雑音が大きくなります。暗騒音の低い無響室で小さな音を測る場合は、むしろ1/2インチ以上の低雑音マイクが必要になることもあります(関連:無響室・無響箱で使用するローノイズマイクロホン)。

まとめ

  • 自由音場型・音圧型・ランダム入射型の違いは、性能の優劣ではなくどの音場で平坦な特性になるかという設計前提の違い
  • 違いが現れるのは、波長がマイクの寸法に近づく高い周波数
  • 無響室・半無響室では自由音場型を音源に正対させる。残響室や車室内ではランダム入射型、カプラや表面では音圧型
  • 型式は IEC 61094-4 の表記(WS2F/WS2P/WS2D など)で確認できる
  • 校正器で得た感度と自由音場での感度には、機種・周波数によってわずかな差が出ることがあり、校正証明書で扱いを確認する

マイクの型を選ぶことは、その測定空間でどんな音場が成立しているかを判断することでもあります。無響室が自由音場として機能しているからこそ自由音場型マイクが設計どおりに働き、残響室が十分に拡散しているからこそランダム入射型の前提が成り立ちます。Moritaniとしては、HBKの測定用マイクロホンとSONORAの無響室・無響箱を、空間の音場条件とマイクの型が噛み合う一つの測定系としてご提案しています。

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